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手紙
[ 2008-7-18 18:07:00 | By: xchq153 ]
 
ベートーベン16歳のころ、
かねてからあこがれを抱いていたモーツァルトに弟子入りを申し出たらしい。

結局はその頃ベートーベンの母親が亡くなり、弟子入りは叶わなかったらしいが、
もしもその際彼らの師弟関係が成立していたら、
どんな様子だったろうと想像すると、
実に面白い。

ベートーベンは1770年生まれ、
モーツァルトは1756年生まれ。
ベートーベン16歳、モーツァルト30歳。
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彼らの性格や人生について、
音楽の教科書や映画『アマデウス』程度の知識しか持たないわたしが、
そんな大それたことを語るにはあまりに知識不足だ。

それでももう200年以上前の話だし、
想像で話をでっち上げたところで、遺族から訴えられるようなこともないだろう。



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『アマデウスとルートヴィヒ』



ウィーンに来てからベートーベンは、腹ぐあいの悪い日が続いていた。

子供の頃から胃腸は弱く、食べ物によっては何日も下痢が続くことも珍しくはなかったが、
先生のところへ来てからというもの、毎日のようにトンカツとぶどう酒で、
おまけに明け方までカードやビリヤードに付き合わされるものだから、胃腸も休まる暇がないのだ。

それでも、どんなに帰りが遅くなろうとも、
先生は帰ったら必ずまっすぐにピアノに向かい、憑かれたように何時間も演奏し、
そのままピアノに突っ伏し眠り込んでしまう。
そんな先生を見ていると、音楽も人生も、捨てたものじゃないと思えてくる。

ボン時代、ベートーベンにとって音楽は人生そのものだった。
そして人生は、辛く苦しい修行以外の何ものでもなかった。

即興演奏で拍手をもらうのは心踊る経験だったが、金にならなければ父に殴られた。
弟たちが寒さと飢えでびいびい泣くなか、
かじかむ手で必死にピアノに向かい、
血のにじむ思いで作曲した楽譜も、売れた金は父の酒代に消えた。

そんなベートーベンにとって、明るく軽やかで自由なモーツァルトの音楽は、
地に花が咲き空に鳥が飛ぶように、太古からそう在るべくして在るような、
奇跡の必然のように思われた。

恋焦がれるようにあこがれて、
父のもとを家出同然に飛び出し、泣きつく母の手を振りほどき、
はるばるウィーンを訪れたのはベートーベン16歳のときだった。


その日もベートーベンは朝から腹ぐあいが悪かった。

モーツァルトは昼過ぎに起きてきて、食堂でぶどう酒をグラスに注ぎ一口飲んでから、
寝巻きのままピアノ室に向かい、歌うように節をつけてベートーベンを呼んだ。

「ねえねえ、ルートヴィヒ、今日はボーリングに行くからね、早く支度をしておくれ。」

「あの子はまたお便所よ。青い顔して走って行ったもの。」コンスタンツェも寝巻きのまま、窓際の長いすで煙草をふかしている。

「ぶはははは!ルートヴィヒはまたぴーちゃんかい?夕べあんなに美味しいトンカツ食べたばかりなのに、もう出しちゃうなんてもったいないなあ!ねえ?コンスタンツェ?」

「本当に。もったいないったら。」コンスタンツェはニヤニヤしながらモーツァルトの顔に煙をかける。


ベートーベンはにやにや感の残る腹に一応の決着をつけて便所から出てきた。

「先生、お呼びですか。」顔色はまだ悪い。

モーツァルトは先ほどの節に即興で伴奏をつけながら、
「来た来た、うんこたれぴーちゃん、大丈夫かい?」と歌う。

「はあ、また少し下ってしまいまして…」

「ルートヴィヒはうんこたれ!ルートヴィヒはうんこたれ!」
モーツァルトは足をばたばたさせながらピアノを弾いている。
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ベートーベンは片手で腹をさすりながら、先生の音楽を楽譜に写していく。

「できた、できたよ、『ルートヴィヒはうんこたれ』!」

「はい、今度の週末の演奏会でアンコールにどうでしょう。最後の曲が『俺の尻をなめろ、きれいきれい
にね』ですから、バランスが良いかと。」

「いいねいいね、ところでルートヴィヒは何を弾くの?」

「はい、昨日先生に手直しいただいた『それはまっぴら、ごめんこうむる』と『ふざけずに向きをかえろ』を演奏しようと思っています。」

「うんうん、ルートヴィヒ、あれはやらないの?なんだっけ、『小銭かえせ』だっけ?」

「『失われた小銭をめぐる興奮』ですか?あれはもうすこし出だしのところを手直ししてからと思っていますが。」

「そっかそっか、いいよいいよ、弾いてみて弾いてみて、一緒に手直ししようよ。」

「はい、お願いします。」

ベートーベンの腹は相変わらすにやにやしていたが、この上なく幸せだった。
大笑いした後、二人はカップ麺をすすっていた。龍馬にはすべてが初めてで新鮮だ。この食べ物もなんだか分からないが旨い。それにお湯を注ぐだけで、量が増えて柔らかくなった。理解の範疇を超えている。
「ね、なかなかイケるでしょ?」
 遼太が龍馬にそう言いかけた時、部屋のドアが無遠慮に思いきり開けられた。

「坂本遼太!今日こそは覚悟しろよっ」
 そう大きな高い声で呼びつけられて、名前の音が近いふたりは二人とも‘自分のことだ’と反応するとその声のする方向へ視線を合わせた。口からはだらしなく麺が出ている。
「あれ、お客さん?」
 視線を注がれた主は気まずい様子で遼太を見る。威勢よくドアを開けたのは隣に住む、千葉 更(ちば さら)だった。細い体にピッタリとした小さめのシャツを着て、ブルーのジーンズ姿でそこに立ち、よく光る黒目がちな瞳で遼太を見ている。
「なんだよ、いっつも勝手に入ってきやがって」
 舌うちしながら、遼太は更を睨み上げた。
「勝手じゃないもん。ちゃぁんとおばちゃんに許可取ってありますぅーだ!」
 唇を尖らせてそう言ってから、遼太の隣にいる龍馬を見ると
「あんたも龍馬ファン?そんな恰好までしちゃって」
 と、汚い袴姿で髪を総髪に結んだ男に呆れた視線を投げる。
「遼ちゃん、今日こそバンドの練習に出てきてよね。兄貴にちゃんと呼んでこいって頼まれてんだからね」
「はいはい。行きゃいいんでしょ?暇なら出るって秀太郎に言っておいてよ」
 面倒くさそうにそう言うと更から視線を外す。
「ダメだよ。自分で連絡しなよ。もう最後だからってみんなちゃんと集まってんだから」
「あぁ~、もう、わかった、わかった。わかったから行け」
 しつこい更に溜息をついて、左手で‘シッシッ’と追い払うように眉をひそめてみせる。そんな態度に更は腹を立てたのか鼻にしわを寄せると
「フンだ、ちゃんと伝えましたからね。」
 と奥歯を噛みしめるような顔を作ってドアをバタンと大きな音で閉め、怒った足音で消えていった。
突然の嵐のような更の訪問に龍馬が驚きながらも遼太の顔をのぞきこむ。
「あの子は?」
 ちょっと興味があるらしい。
「ん?あぁ、あれね。隣のおてんばだよ。アイツの兄貴と俺さ、タメでさ、高校の時から暇つぶしにバンドとかやってたの。みんなもうすぐ卒業だしさ、最後にパーっとライブでもやってみようってことになってさぁ。その練習に出て来いって言いにきたんだよ」
 龍馬には話が伝わらなかった。
「バン????ライ???なんのことか、さっぱりわからんきに」
 頭をポリポリ掻いて考えている様子だった。
「あぁ、ごめん。うーんとね、なんて言えばいいのかなぁ、楽団??っていうか」
 と遼太は自分で言っておいて
「楽団だって~」
 と自分の言葉にウケまくっている。
「あ~、もう、いいよ。今日さ、一緒に練習行こ。そうすればわかるから。百聞は一見にナントカっていうじゃん」
 百聞は一見にしかず。大学生、大丈夫か?
「それから、それ、着替えたほうがいいよ。俺のものに着替えて」
 そう言うと遼太は小さいクローゼットから自分のジーンズや長袖のTシャツなどをいろいろ引っ張りだして龍馬の前にポンポンと並べて置いた。
「好きなの着なよ」
収腹提臀型 http://www.shanghaikanpo.com/view/1205.html
修腕型 http://www.shanghaikanpo.com/view/1204.html
海斯莱福 http://www.shanghaikanpo.com/view/1211.html
 しかし、好きも嫌いも龍馬には選択するすべがない。歳のころは21,22くらいでほぼ同じ。身長が170cmくらいの偉丈夫だと伝わる龍馬には現代の洋服もなんなく着られるはずである。立ってみるとやはり、180cmの遼太よりちょっと小さいくらいで、ずば抜けて小さいというほどでもない。あの新選組、鬼の副長、土方歳三ですら162cmほどと伝わるのだから、やはり龍馬は大きかったのだろう。
「ジーンズ、はけるかな?」
 遼太が自分のジーンズをはかせてみようと袴をぬがせると、当然のことながら龍馬はふんどし姿だった。これで細身のジーンズは無理である。
「まず、下着からだなぁ。」
 遼太がそう笑って、まだ新しい買ったばかりの下着のボクサーパンツを龍馬に手渡し、
「まず、全部脱いで、これをはく。」
 というと龍馬は受けとった不思議な形の布をまじまじと見つめている。
「なんじゃぁ、こりゃぁ」
「パンツ。ふんどしのかわりだよ。とにかく、はく!」
 理屈など抜きで上から目線で命令されて、龍馬は仕方なく裸になると、遼太に教えてもらいながらそれをはいた。ピタっとしていて気持ち悪い。とまどう龍馬におかまいなしで遼太は次から次へと洋服を着せたり脱がせたりして楽しんでる様子だった。

 やっと遼太からO.Kが出て、鏡の前に立った時、龍馬は本気で驚いた。まるで異国人だ。
長袖のラグランシャツにジージャンをはおり、ジーンズをはいている。
「似合うよ。うん。すっげぇカッコいい」
 遼太はニコニコしながら一人で納得している。
しかし、似合うと言われて龍馬もその気になってきた。やはり若いのだろう。戸惑いよりも好奇心が優っているようである。
「そんなに似合うか」
「うん。イケてるよ」
 遼太が右手の親指を立てて微笑んだ。その様子を真似して龍馬も親指を立てると
「池がなんじゃったかのう?」
 と笑う。
「池じゃないよ。イケてる」
 と遼太がもう一度教えると
「イケてる」
 と律儀な顔で復唱した。
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